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福岡高等裁判所 昭和42年(う)506号 判決 1967年10月11日

被告人 安陪弘

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人吉永普二雄提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

所論は、原判決は 被告人は福岡県直方市津田町交差点において普通貨物自動車を運転通行するに際し歩行者が横断歩道により道路の左側部分を横断しようとしているのにその直前で一時停止をしなかつたものであるとして、道路交通法第七一条第三号、第一一九条第一項第九号の二を適用している。しかしながら、当時被告人は交通整理の行われていた右交差点を右折していたものであるから、同法第三八条第一項に当るかどうかが問題である。けだし、同法第七一条第三号は横断歩道における横断歩行者の保護という面では同法第三八条第一項とその目的を一にしているが、同法第三八条第一項は、特に車両が交差点で左折または右折する際の横断歩行者との関係を規定したもので、同法第七一条第三号の特別規定であつて、交差点における車両と横断歩行者との関係については同法第三八条第一項が適用されるべきものである。そして、被告人は当時横断歩行者の通行を妨げたことはなかつたものである。したがつて、原判決には法令適用の誤りがある、というのである。

そこで、検討するに、道路交通法第七一条第三号は横断歩道(同法第二条第四号参照。)の横断歩行者と車両との関係を規定したものであるから、交差点またはその附近に横断歩道があるときはその横断歩道の横断歩行者と左折または右折する車両との関係も同条号によつて規制されるものであり、同法第三八条第一項は交差点またはその附近に横断歩道がない場合について道路の横断歩行者と左折または右折する車両との関係を規定したものである。したがつて、右両規定は所論のような関係にはない。そして、原判決挙示の証拠によれば、当時歩行者が横断しようとしていたのは横断歩道であり、被告人運転の自動車はその横断歩道の直前で一時停止しなかつたものであることが明らかであるから、被告人は道路交通法第七一条第三号、第一一九条第一項第九号の二違反の罪の責任を免れない。原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。

そこで、刑事訴訟法第三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 塚本富士男 安東勝 矢頭直哉)

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